削り仕上げ

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仕上げ

なぐり:風合い豊かな空間の演出

「なぐり」とは、木材の表面を斧に似た「ちょうな」という道具を使って削る伝統的な技法のことです。ちょうなを巧みに操ることで、木材に独特の削り跡が刻まれ、それが味わい深い凹凸を生み出します。この凹凸は、単なる視覚的な効果だけでなく、触れたときの心地よさにもつながり、木材の温もりをより一層引き立てます。 この「なぐり」の技法は、古くから日本の建築や家具作りに用いられてきました。特に、茶室の床柱や数寄屋造りの家屋など、日本の伝統的な様式を重んじる空間においては、なくてはならない存在です。自然の風合いを生かした「なぐり」仕上げは、落ち着いた雰囲気を醸し出し、そこに集う人々に安らぎと静寂をもたらします。また、柱や梁などの構造材にも用いられ、力強い印象を与えています。 現代の住宅においても、「なぐり」の技法は和の趣を取り入れたい場合や、自然素材の温かみを表現したい場合に活用されています。木材の種類も、杉や檜、松など様々で、それぞれ異なる表情を見せます。例えば、杉は柔らかな風合い、檜は上品な光沢、松は力強い木目と、それぞれの持ち味を生かした「なぐり」仕上げが可能です。天井の梁や壁の一面に「なぐり」仕上げを取り入れることで、空間に奥行きと変化が生まれ、住まいに個性と風格を添えることができます。 さらに、「なぐり」仕上げは、木材の耐久性を高める効果も期待できます。ちょうなで削ることで表面が硬くなり、傷や汚れがつきにくくなります。また、木材の呼吸を妨げないため、湿気を調整し、快適な室内環境を保つのにも役立ちます。このように、「なぐり」は、美しさだけでなく、機能性も兼ね備えた、日本の伝統が生んだ素晴らしい技法と言えるでしょう。